2021/11/17
サルコイドは馬の皮膚腫瘍で最も多く見られるものであり(35~90%)、2%の馬が罹患していると言われている。牡馬/牝馬、毛色は発症に影響せず、騙馬でリスクが高い。当歳馬では少ないが、7歳以下で多く70%以上が4歳以下であるとの記載がある。また、クォーターホース、アラブ、アパルーサ種に好発し、スタンダードブレッドではリスクは下がる。サラブレッドにおける発生率は報告によりまちまちであるが、罹患すると腫瘍が発達しやすいとされる。どの部位にも発症するが、顔、四肢、体部下部が多いとされ、以前に外傷があった部位に出来やすいとも言われる。 診断はバイオプシー後の、病理組織検査、PCR検査により行われる。PCR検査では、サルコイドの73~100%で検出される牛パピローマウイルス(BPV)を検知する。タイプが6種類あるBPVのうち、type1とtype2がサルコイドに関与している。感染牛からハエが媒介して馬にBPVを感染させることが報告されているが、腫瘍に導かれる機序は正確にはわかっていない。 サルコイドは他臓器への転移が少ないことや自然消滅するものもあることから経過観察を促す向きもあるが、周囲への浸潤や組織破壊などを考慮すると早期の介入が必要なことも多い。治療法にgold standardはなく、外科的摘出、凍結療法、放射線療法、局所抗ウイルス療法、電気化学療法、免疫調節療法、自家ワクチン療法などが実施される。治療の選択は、部位、サイズ、浸潤強度、病変の数、治療経過、経験や技術、所有する機材や施設等をもとに判断する。 ここでは免疫に関わる治療法を取り上げる。免疫調節療法では、免疫反応を誘引する目的でBCGワクチンを2~3週毎に2~9回腫瘍内に注入する。複数回投与でアナフィラキシーショックの可能性がある為、注意を要する。眼周辺で特に効果的で、四肢や体部、再発部での効果は限定的であり、成功率は報告により59~100%とされている。自家ワクチン療法では、凍結した自己のサルコイドを5mm角にして頸部皮下へ埋め込む。Benjaminらはこの方法で15頭中12頭で腫瘍が完全に消失した(90~120日)とし、Rothackerらは12/16で腫瘍の数が減少、15/16でサイズが小さくなり、8/11で他の治療なしで完全に消滅したと報告している。いずれも詳細な機序は解明されていないが、効果があることはいくつもの論文で報告されている。 サルコイドは再発率が高い(摘出後半年の再発率50~72%)ことが知られている。1cm以上のマージンを取った注意深い摘出で再発率は18%まで低下するが、眼周囲の症例では82%が再発するとも言われている為、注意深い経過観察が重要である。 参考: ・Equine Dermatology 2nd Edition ・Equine Internal Medicine ・Current Therapy in Equine Medicine 7 ・外科的切除と凍結した組織片移植により治療した馬サルコイドの1症例(樋口ら2016) ・How to treat equine sarcoids by autologous implantation (Benjamin 2008 AAEP) ・Autologous vaccination for the treatment of equine sarcoids:18 cases (2009-2014) (Rothacker 2015) 報告者:敷地光盛