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当歳馬のローソニア感染症

今年生まれた当歳馬で、高熱と鼻汁という主訴で初診。この時点で下痢は見られず、感冒として処置した。しかし、3日目から下痢がひどくなったため、抗生剤をOTCに変更し、採血したところ、TP 2.6g/dlAlb 1g/dl とローソニア感染症に特徴的な低タンパク血症、低アルブミン血症を呈していた。糞便のPCR検査を行ったところ、Lawsonia intracellularisが検出された。5日目頃から四肢や顔の浮腫が目立つようになり、削痩してきた。浮腫の軽減と栄養補給を目的としてユニバーサルドナーから血漿を1ℓ ほど輸血し、その後脱水の改善のために朝晩3リットルずつ3日間補液を行った。また、抗生剤を長期投与することを考え、ドキシサイクリン(経口投与)に変更した。

    重度の下痢           削痩           下顎の浮腫

その後は水様の下痢から軟便になり、元気もわずかに出てきて回復傾向にあった。13日目、特に浮腫が目立った左前肢の球節付近から自壊。浮腫によって皮膚が脆弱になり、腹部や胸部の皮膚から漿液や膿汁が漏出する例もあり(Lawsonia intracellularis Infection in Horses: 2005–2007M.L. Frazer)、当日まで同肢に熱感、疼痛、跛行などはなかったため、浮腫によるものと推測したが、原因は不明…。

 17日目に下痢がやや悪化し活力が低下したので、浮腫軽減と栄養補給を目的として、血漿輸血111ℓ を三日間行った。浮腫は大きく軽減したが、下痢がなかなか良化しないので、HBAの先生に教えていただいた有害物質の吸着・殺菌効果のある止瀉剤(ビオエンチ🄬)の投与を開始したところ、下痢が良化し短い時間であれば放牧できるほど元気が回復した。

 

    顔や四肢の浮腫が軽減しました。

 

三日間の血漿輸血を挟んで、TPが2.2g/dlから2.5g/dlまでしか増加せず、本症例では血漿輸血でもなかなかTPが上昇しなかった。

ちなみに、TP4g/dlを下回るような場合の血漿輸血の投与量の目安は、

 

血漿のVolume (L) = ([TP target– TP patient] × 0.05 × Bodyweight [kg]) ÷TP donor   (TPの単位はすべてg/dl)

 

という記載はあるが、目標値に達しないこともあるそうだ。

 

ローソニア感染症で下痢を呈する個体は全体のわずか26%とされている。また、本症例はワクチンを接種していたにも関わらず重度の下痢、削痩が起こったため、離乳直後の当歳は十分に注意して管理することの大切さを改めて痛感した。

 

参考文献

Robinson’s Current Therapy in Equine Medicine 7th edition

Equine Internal Medicine 3rd Edition

Plasma Therapy in Foals and Adult Horses』(Mar 8, 2019Brett S. Tennent-Brown

 Hematology October 2011 (Vol 33, Issue 10)