馬の股関節脱臼は、多くの靭帯や筋肉に囲まれた関節であることや寛骨臼が深いことから、牛や小動物に比べて非常に稀な病態である。馬で起こるとしてもそのほとんどが子馬、ミニチュアホース、ポニーなど小さな馬に限られ、普通は片側で、その変位はいつも頭背側である。
脱臼時には副靭帯と円靭帯の断裂が必ず起こり、しばしば寛骨臼の背側部の骨折を伴う。その原因は大きな外力による股関節の過伸展である。また、膝蓋骨の上方固定や腸骨骨折を伴うことが多いとされている。
発症時には負重できないような重度の跛行を示し、慢性例では跛行の程度は様々である。頭背側へ変位することから、患肢の飛端が正常肢よりも高い位置にある。蹄尖、後膝は外向し、飛端は内向となる。触診により軋轢音がすることもある。
診断は大きな外力の有無、上記のような症状、レントゲン検査、超音波検査にて実施する。今回は250kgの子馬であったが、鎮静下で後肢を広げたり、患肢を持ち上げた状態で、DRを用いて下方向から撮影した。全身麻酔下で検査を行う場合は、骨盤骨折を除外してから倒馬する。
股関節脱臼は治療がしばしば不成功に終わったり、予後が悪いことから、多くは安楽殺処分となる。非観血的整復はいつもベストな治療オプションであるが、成馬では非常に困難であるし、多くで再発する。慢性例では寛骨臼がフィブリンで満たされ整復が困難となる。
寛骨臼の骨折を伴うと予後不良であり、完全脱臼も予後は良くない。骨折のない亜脱臼のみの場合は、予後の可能性は上がる。保存的療法という選択はなく、整復できなければ安楽殺処置をとるべきである。ごく一部の馬は整復後、健康に過ごせるがこれらは例外的である。整復後3ヶ月再発がなければ、ほとんどの馬は繁殖用途であれば健康に過ごせるという報告もある。
(ADAMS & STASHAK’S LAMENESS IN HORSES 7THより抜粋)
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